「歌い人」編集。

さて、歌として世に出す前には編集という作業がある。
編集とは何をするのか?…。
「けんちゃんどれ使う?本人は最後のテイク12で満足したみたいやけど」
「たー坊、テイク12はレンジ広すぎるやろ?なにもこんなに、小さく小さく、大きく大きくと幅広く歌わなくてもいいのに」
「なんで声量の大小がつきすぎるとだめなん?」
「ポップスは日夜洪水のように垂れ流される。店のBGM、ラジオ、テレビ番組、CMソングなんて聞こうと思って耳をすまして聞いている奴なんてどこにもいない。別のことをやりながら、たまたま耳に入るということが多い。最初にどれだけ印象に残るかが勝負なんだ。小さい音ってのはほんの一時だけでもハンデなのさ。小さい音を持ち上げ大きい音はつぶしてレンジを狭める。それから全体レベルをギリギリマックスまで上げるわけや」
「ふーんじゃあここの小さいとこの音量を持ち上げるん?」
「その手もあるけど、他のテイクでこの部分、いいのない?」
「じゃこれテイク6から」
「おっいいじゃん、これ使おう」パソコン画面上でテイク6のワンフレーズを切り出してテイク12のトラックに貼りつける。
「どうやうまいもんやろ?まぁパズルみたいなもんやな。あとはと、ここほら高い声が伸びてないよなぁ。リバーブ薄くかけておくか。・・・ありゃりゃここほんの一瞬ピッチ微妙に低くないかい?困ったなぁ。」
「けんちゃんけんちゃんいいソフトあるよピッチをセント単位で補正できるって」
「へぇーそんなソフトあるん?」
「けんちゃん古い古い。今や、へたっぴアイドル歌手はみんなこのソフト使ってピッチ補正してるんだって」
「なんや時代はもうそこまでいってるんかい?じゃそれ使ってみるか」
「んんー、こらぁかなわんわ。マニュアル厚すぎるで。どこ読んでいいかわからんわ。ここはひとつ次世代音響クリエイターの、たー坊様にまかせてと」
「けんちゃーん・・・」

「ふう、やっとできた。けんちゃん思ったんやけど、おいらたちの仕事ってお見合い写真の修正と一緒なんやね」
「たー坊、いいとこ気付いたな。しわ取り染み取り整形稼業ということや」
「おいらなんだか詐欺師みたいな気分になってきた。おれたちって音楽を完成させているのか?汚しているのか?微妙だね」
「たー坊、今のその感じかた絶対に忘れるなよ。悩みどころ苦しみどころやで。いつかコマーシャリズムという化け物と戦う日がきっとくる」