トリビュート

イヤフォンを耳にねじ込みフルボリュームにして家を飛び出す
コルトレーンへのトリビュートライブがまだ眠っている脳を揺さ振る
ポケットの中でマウスピースを握りしめ自分も一緒に歌う
曲とともに歩くペースを上げていく
町並みの隅々にまで光が行き渡った晴れた春の朝。
駅への数分を歩きながら今日から始めるマウスピースだけの音出しをイメージする
何かを始めたくなる朝は、いつもより心が時間に先行する。

隣駅発車の空いている電車
椅子のない空いている車両に滑り込み壁に背をあずける
プレイヤーによるコルトレーンへの思いがむき出しになる
「ミスターPC」はコルトレーンポール・チェンバースに捧げ作った曲。それをコルトレーンへ捧げるライブのオープニングとして演奏する
サックスが空高く叫びピアノが跳ねる
瞼を閉じ二曲目の「ネイマ」を待つ。コルトレーンが妻に捧げたバラード。
誰かが愛する誰かに歌を捧げ演奏を捧げる
音楽人は心が脆い、
いつも誰かの愛を必要としまたいつも誰かを愛している。
そして不器用な日常では決して伝えることのできない愛を、歌にする音にする
俺もそんなふうに不器用で格好よく生きたい。
愛するものへ捧げる歌を、愛するものへ伝える歌を作りたい。
ポケットの中のマウスピースを握りしめる。