その弐

兄は地方のコンサートホールに勤めている。
千人を越える大ホールと、四百人規模の小ホール、すり鉢場の広い野外イベント場。
日本のトップアーティストは言うに及ばず海外から一流のクラシック奏者を呼ぶこともあるそうだ。
採算を度外視した企画の数々、累積する赤字、
さすが世界的な大きな組織がその土台を支えているだけのことはある。
ロックフェラー?ロスチャイルド?華僑?笹川財団?
惜しい!その組織とは親方日の丸。
世界二位の金満大国日本。
中でも地方の箱物は特別ぜいたくにできている。
角栄さんの亡霊を今だに拝むという土地柄、
公共と名の付くものは全て、過剰に金が掛かっている、ように見えてしまう。
そして、そこに集まるのはミーハーで冷酷な客。
地方で最もウケルのはテレビで活躍する人たち
「ほらほら、いたいた、本物よ〜!キャ〜!写真写真、サインサイン、、」。
その扱いはレッサーパンダ風太くんと何ら変わらない。(懐かしい)
そういう意味では天童よしみ氷川きよしはある意味辛いのではないだろうか。
「この人たちは僕の歌を聴きにきたのか?
それとも有名人を見たという自慢にもならない自慢の種を拾いに来たのか?」と。

去年、メディアに引っ張りだこの若手女性サックスプレーヤーを呼んだそうだ。
「彼女はあまりよくなかった」と兄は言う。
兄は、演奏内容と客の反応を総合してよくないと評価したのだと思う。
彼女のプレイをテレビで見たことある俺にはよくなかった原因がよくわかる。
一言で言えば、演ずる者と観る者のミスマッチ。
彼女のサックスは上手い、すごく複雑なジャズラインを流暢に紡ぐ。
それはニューヨークのジャズクラブで耳の越えた客がムムッとうなるような演奏。
雪国の地方都市で、米を作る合間に聴きにきた客にウケル演奏ではない。
彼女は何も客ウケするためにそこで演奏したのではない、
ので、自分のスタイルは頑なに守っていい。
ただ、その場をお客と一緒に楽しむという意味合いにおいては、
やはり失敗したのであろう。
単純なペンタトニックフレーズを使い盛り上げるとか、
フリーキーな音で度胆を抜くとか、いろいろ方法はあったはず。
彼女にはいい経験になったであろう。今後に期待しよう。

では終わらない。