堕落論の弐

俺の場合、吹いているうちになぜだか「調性」ってやつが許せなくなるんだな。
一音二音三音とスケールアウトさせては、ニヤニヤしたり赤面したりしながら吹きまくる。
で結局いつものカオスモードに突入。
それにしても、スケールアウトした瞬間の「ざまぁみろっ!」的な快感ってのは、なんなんだろ?
う〜ん、、
たとえば、有名幼稚園、有名私立、東大を経て財務省に入り、
エリート街道のド真ん中を歩いて50年の男が、
ある日、突然、女装趣味に目覚めてしまい、
妻と娘が女だけの温泉旅行に行ったその隙に、
デパートで「娘の誕生プレゼントです。」と連呼しながら買ってきたタイトミニを無理矢理穿いて、
夜の繁華街をムッチムッチと歩き、男たちの視線や哀れみを受けて、恍惚に震える。
ぎゅうぎゅう詰めの終電にドキドキしながら乗り込み、
お尻を撫でられ、身を捩ってイヤイヤなんぞをしてみせたりしながら、
「今日はここまでよ」と自分を宥めながら家に帰り着きドアの前。
誰もいないはずの家から漏れる笑い声に凍り付く。
「温泉中止でショッピングとレストランにして正解だったわね」
「楽しかったね〜」
「それにしてもお父さんどこ行ったのかしら、こんなに遅くまで」
「ひょっとして浮気だったりして…」
「…」
「ギャハハハハ」
「笑わせないでよ!道徳の教科書が歩いていると言われ続けて50年、のあのお父さんが、浮気ぃ〜、アハハハハ」。
…男は、ルージュを引き直し微笑んだ。
そして、大きくドアを開けた。
的な、開き直りカミングアウトの爽快感と、俺のスケールアウトのそれは、同じ、なのかもしれない。
また、翌朝タイトミニで財務省に出勤、そのままエリート街道からドロップアウト
という快感と同じ、なのかもしれない。