一枚の落ち葉

俺はあんたに呼ばれて部屋を出て階段を降りた。
「ばーちゃんを止めてくれ、言うこと聞かんくて参ったいや」

ばーちゃんは春に玄関先で転び腰骨を骨折して入院、退院してから家で寝たり起きたりの状態が続いてた。
夏の終わり頃、俺が学校から帰るとばーちゃんは風呂場で「参った、参った」と繰り返し呟きながら粗相の後始末をしてた。
俺は「大丈夫だぜ大丈夫大丈夫」と言い聞かせながら寝床に連れていき寝かしつけ、すぐさま家中に充満している便の匂いから逃げるため二階の自室に逃げ込んだ。
その日を境にして寝たきりになりそれとともに急激にぼけていったばーちゃんは、おふくろが昼夜面倒を見るようになった。

俺は、寝たきりでぼけている筈のばーちゃんが玄関から出て行こうとしているのを見て驚きながらも
「ばーちゃん外は寒いから中に入ろう、な」と声をかけた。

あの時あんたは一瞬正気に戻ったばーちゃんが力を振り絞って家から出て行くのを、
おそらく井戸に身を投げようとしてたのを俺に止めさせたよな
自分の母親が死のうとするのを孫の俺に止めさせたよな
なあ、忘れたなんて言わせない

今は、自分がいよいよどうにもならなくなったので俺に殺してくれと頼むのか