@今日の昼休みに屋上でのβ

甲板に出た、おもちゃのレゴブロックのように高く積み上げられた膨大なコンテナが船体の際まできていて圧倒される
狭い通路の20メートルほど先で黒い服の男が煙草を吸っているのを見つけた
「あのーすいません」と声をかけたら男は煙草を投げ捨て何やら一言強く叫び、黒い棒を突き出して構えてきた
密航者にでも間違えられているのかもと思いながら両手を上げて抵抗しないことをアピールする
乗船している友達に会いにきたことを説明しようとするが男の鋭い眼光に射すくまれ言葉が出ない
リタの親父さんを呼んでもらえればなんとかなるだろと自分を勇気づける
一歩一歩用心深く間合いを詰めてきていた男がふいに動きを止め口元で笑った
次の瞬間、背後からすっと手が伸びて喉元に冷たい物がぴたりと張り付いた、反射的に後ろに頭をのけぞらせると
間髪入れずに後ろ頭を押さえつけられ、再びピタリと喉元に冷たいナイフ。
頭の中はパニックで大騒ぎだが身体はピクリとも動かない、頭と身体を繋ぐ線がぷっつり切れてしまったらしい
叫びだしたいが息もできない
前方にいる男は煙草に火を付けながらニヤニヤと笑ってる
背中にいる誰かからは呼吸音すら聞こえない
すぐに後ろ頭の押さえが消えたがナイフは喉に張り付いたまま、どうして動くことができよう
ジーンズの右後ろポッケから財布を抜き取られていく
そして耳元でいきなり「榎本さん、この船に何か用ですか?」と名前を呼ばれて心臓が殆ど止まりかけた
(今思えば財布の中の免許証を見られたのだとわかるのだが、いきなり名前を呼ばれたショックで死ぬところだった)
乗船している友達に会いにきたことを早く説明しなくては喉を裂かれてしまうと焦りまくるが
声にならない、息を吐くということを忘れて口をパクパクするだけ
背後から小さな笑い声が聞こえナイフが静かに引っ込んでいく
ぼくは前を向いたまま必死で喋った「この船に乗りブラジルに行く友達に会いにきた、お父さんの仕事関係でこの船に乗せてもらっていて名前は…」
背後から音もなくナイフが伸びてきて鼻先1センチでピタりと止まり息を飲んだ
「榎本さんあなたはどうやら船をお間違えのようだ。隣に停まっていたブラジルのコンテナ船なら今から7分前に出港していきました。さあどうぞお帰りください東京都大田区大森●●−●●−●の榎本さん」
ぼくは動かない足を一本一本、手で持ち上げるようにしてコンテナ船を降りた
そして絶対に後ろを振り向いてはいけないと自分に言い聞かせながらコンテナ船を離れた。