5月5日その四

夕方
「また明日くるからー」とおばあちゃん家をあとにした。
Sンノスケ号で船越のボラセンに帰る途中「おばあちゃんが言ってた船越の老人介護施設ってここだよなー」と屋上にポルシェが乗っかったままの建物を見るが、ほとんど手つかずの光景に改めて語れる言葉を失くして、、今のこの状況をおばあちゃんに報告できそうにない。
静かに、手を合わせた。

ボラセンで今日の作業報告をして、玄関サイドにある「ご自由にお持ちください!コーナー」を物色する。
かわいいピンク文字で、がんばってください!というメッセージ入りのお菓子袋を発見してドキドキしながら手にした。
きっとメッセージの裏には野球部のマネージャーっぽい性格の可愛い女子が自分の連絡先を書いているに違いない!うほっ!
「あ、それ何にも書いてねーよ」
「うるせーよ!三秒くらい夢見させろっ!つうか俺なんにも言ってねーのに、なんでわかったん?」
どうやら、野郎どもと長いこと寝起きを共にするといろんな弊害がでてくるようだ。

Mークが避難所になっている大沢小学校に行きたいというので向かった。
我々ジャパニーズよりも全ての作りが一回りずつ大きい男Mークが、山田町にきたのには理由があった。
彼はなんと35年前にこの町の子供達に英語を教えていたという。
その時、下宿していた家の家族の安否を心配してきたのだ。

35年の歳月と津波で町はまったく変わり果ててしまい避難所にいけば何か手掛かりがあるのではないかと。

Mークが小学校に入っていった。 
Sンはボラセンに携帯を忘れて車で取りに行った。
Kムラは携帯で誰かに報告か?
携帯繋がりでぼくは思い出した、ポカラのKっちゃんに電話せねば
「いやいやどーもどーも!今日から山田町に入ってます。町の状況は言葉にできないほどに厳しいです。みんな自分たちのことで手一杯で、ポカラの屋根の修繕を頼めるような人は見つかりそうにないです」
「そうだよなー、よし、こっちはこっちで地元で声かけてみるよ、ありがとう」
「こちらこそ力になれなくて、夏至祭行きますのでよろしくー!」
ポカラで楽しく飲み食いしたのはもう遠い昔のような気さえする。この地に慣れれば慣れるほど、かつての日常が足早に遠ざかっていく。

ぼくは肌寒い誰も遊んでいない校庭を見ながら「Mークが尋ね人に会えるといいなあ」「もし会えなくても、生きていることだけでもわかればGOODだな」
「うーん…、もしかしたら、慰めることになんのかな」

Mークが小学校からでてきた、笑顔だ。よっしゃ!
「この近く、歩いていける距離の家に捜していたおばあちゃんが身を寄せているというので今から行ってきます。もう少し待っててください」
「おぉー!よかったなー、いってらっしゃい!」
この津波を乗り越えて35年前ぶりの再会とは感動だなあー
よかったよかった今晩は祝杯だぜ!

長い時間がたちMークが弾むようにして帰ってきて興奮しながら話してくれた。
「教えてもらった家につくと家の前でヤンキーの兄ちゃんがいて、中に向かって「おばあちゃーん!インターナショナルなお客が来たよー」と声かけた。
そしたら、中からおばあちゃんが出てきて「Dンくーん?Dンくーん!」と叫びながら抱きついてきたよ。日本人はハグしないでしょう?それなのにおばあちゃんはぼくに飛びついてきた。」と言いながら大喜びのMークDンカン。
どうやらDンくんと呼ばれてたらしい。
「それからは、もう大騒ぎで東京にいる娘や息子に電話をかけて、電話口の娘がものすごい大声で「DンくんDンくん!」と騒いで△◎□▱◇…。」

宮古市に向かう車の中で興奮冷めやらぬMーク。
そりゃそうだよなー、津波がない当たり前の日常だったとしても音信不通状態の人と人が35年ぶりに元気に再会できたらそりゃ大興奮だわ。
「ぼくは、実はお父さんのことはあまりよく覚えてないのですが、この津波で船越の老人介護施設で先生と一緒に亡くなってしまったそうで」
…、
はて?なんだかつい最近どこかで聞いた話しのような…
いきなりSンが「大沢地区?」と聞くと「大沢地区」と答えるMーク
「…」
Sンが思いっきり助手席のMークを見て指差しながら
「Oカワ?」と聞くと「Oカワ」と答えるMーク。
「…」
「hサコ?」と聞いたら「hサコ」と答えて
そして、二人でゆっくりと確かめるように
「Oカワ、hサコ!!」キタ━━━━(*゚∀゚)っ゚∀゚)っ゚∀゚)っ━━━━!
「えーっ!なんで?なんで?なんで知ってるのー?」(ケントデリカット風に)
Mークはキョトンと鳩豆鉄砲!
「今日俺たちそのOカワhサコさん家にボランティアに行ったんだぜー」
「えーっ!!」
いやはや、たいしたたまげたなー。
偶然というか奇跡というか縁というか。
昨日Gイチがたまたま一緒にボランティアをしたMークを、たまたま村長のところに連れてきて、たまたま俺たちに会って、たまたま俺たちが初ボランティアで行った先のおばあちゃんが、たまたまMークの尋ね人で。
たまたまがあまりにもたまたま過ぎて、こりゃ俺たちみんなどっかに見えない糸でもついてるんじゃねーか?笑。
「明日も俺たちhサコさん家にボランティア入るからMークも一緒に行こうぜー、hサコさんびっくりするでー!」
明日が楽しみだなー
さあさあ、我々ジャパニーズよりも全ての作りが一回りずつ大きい男Mーク!お酒がだめなら祝杯がわりに、たーんとお食べ。