ゲルマニウムの夜

8日の土曜日、職場の同僚Aとその元後輩Bと俺の三人で飲みにいった。
仕事のできるBは会社の旧態然とした年功序列に絶望して昨年末に会社をやめていた。
二軒目のカラオケ屋でAがマイクをテーブルにゴツゴツとぶつけたりテーブルの足を蹴ったりしてた。
BがAにいきなり殴りかかった。
テーブル越しに胸ぐらをつかみ顔面に容赦なく拳をたたき込む。
Aは顔をかばうこともなく苦痛に顔を歪めるでもなく惚けたぬいぐるみのように殴られていた。
俺はまったく事情を把握できないままにBの上体をソファに押さえ付けて止めた。
「おれはどんなにあんたのことを思っていたかわかるか?」
BがAに思いをぶつける。
Aは酒で仕事に穴を開けることがあり、その度、後輩であるBがAをかばいクビにならないように立ち回っていたのを俺は知っていた。
しかしAは酒に逃げることをやめないで酔って仕事をすっぽかすは、酔って車に轢かれるわの呑んだくれ人生。
俺は「もう次は仕事や生活あるいは身体や命まで、もっていかれるだろうなぁ。まぁそれはそれで酔っ払いの王道というわけで幸せかな」と、傍観してるだけだった。
後輩であるBがAをあきらめることはなかった。
それともBは会社だけでなくAに絶望してやめていったのか?
「あー、なんだー、こらっ」Aがうなった、一瞬、俺は苦笑いでごまかそうと試みる。
が、Aのクビを掴み床に転がした。
「Bがお前を思う気持ちがわかんねーのか?お前をどんだけかばってくれたか。お前が会社をクビにならないように立ち回っていたBの苦しみがわかるか?こいつの気持ちわからないんだったら生きていたってしょーがねぇよ。死ね。とっとと死ねや。これから電車飛び込め。おい今から駅に行こうぜ。俺がきっちり最後まで見届けてやる。細切れになったおまえの最後の一片まで拾ってやる。親を呼んで一部始終説明する。さぁ心おきなく死ね。さぁお前は死ぬよ、行こうぜ。さあ立とう」と、最後は耳元でやさしくささやく。
まぁ結局後輩Bのほうから「もういいです。もうやめてください」とストップがかかって終わり。
それから三人仲良く朝まで居酒屋で飲んで「また飲もうね」と笑って解散した。