昨昨昨日記の二

歩いて歩いて三十分。何食わない顔で病院のトイレに入り鏡を覗いた。
といっても「覗き」ではない。
トイレの鏡に写った自分の顔を恐る恐る覗く。
額には、うっすらと赤くアトランティス大陸模様が浮かんでいた。
葉桜の頃、仕事中におでこがチリチリと熱を持ち鏡を見たらどこかの大陸みたいにくっきりと赤くなっている。
さすが大陸だ。いくぶん盛り上がっている。
オーストラリア大陸に似ていなくなくもないが、よく見てもよく見なくてもコアラやカンガルーはいない。
現存する大陸のどれにも似ていない。
ならば答えは一つしかない。
このおでこの赤い大陸は「失われた大陸アトランティス」。
人類史を越え、地球史をも書き換えるくらいの大発見に、
さすがの俺も嬉しくなり、近所の大学病院の皮膚科に行った。
今日はその通院、四回目。
三十項目にも及ぶアレルギーの検査では何も引っ掛からなくて、
こうげん病とかいう漢字さえ出てこないほどの難病検査もなんともなくて。
「原因不明ですね」と荒川静香そっくりの女医Y先生、ふてきな笑み。
ほんとうによく似ている。
一分の隙もないパキパキの化粧と、薄い唇に浮かぶ笑み。
荒川静香本人よりも似ているかもしれない。
Y先生にスケート靴を持たせて、テニスウェア姿の荒川さんの隣に立たせたら
ほとんどの人が迷わずY先生が静香ちゃんだと思うはずだ。
隣が荒川太郎さんならば。
Y先生とは前に一度激しく燃え上がった仲だ。