Yちゃんの壱

仕事仲間に音楽狂いがいる。
毎日、毎日、片道二時間以上も掛けて、遥か遠くの某国際空港の近所から通ってきている、強者Yちゃん。
彼が聴く音楽は幅広い、越路吹雪からマーラーまで、
あるいは、高橋竹山からピンクフロイドまで。
「竹山の津軽三味線は最高ですよ!魂がこもってます。今、流行りの○○兄弟なんて、あんなものっ」とか
ピンクフロイドの「狂気」を聴いたら涙が出て止まらなくなります」とか
「ベートーベンの「運命」をみんな理解してないんですよね〜。第二楽章が最高なんですよ!」とかとか
「誰それ指揮(ロシアの指揮者らしい)のCDは無条件で全て発売と同時に買います」
「ELPの「展覧会の絵」新しい紙ジャケで買い直したからプラケースあげます」
なんて、実に気前よく俺にCDをくれたりする。
そして別れ際「人間はこういうのを聴かなくてはダメなんです」と目を光らせて言う。
信念の人Yちゃん。
民謡、演歌、ポップス、ロック、プログレ、ブルース、ジャズ、クラシック、オペラ。
海よりも広いストライクゾーンは、すでに嗜好という意味を失っている。
「紙ジャケで再発売されたからと言って、なんでわざわざ買い直すん?中身はまったく同じやないか?」と俺が尋ねたら、
「何を言ってるんですかぁ?音が、まぁーったく違いますよ、紙ジャケ再発売のほうが音が全っ然っいいんです!」と「っ」と「!」で熱く説明してくれる。
彼は、日曜の夜9時からは3チャンネルのクラシックと決めているらしい。
生まれて初めて見た、日曜夜9時3チャン男。
持っているレコード、CDは数百枚。
買った枚数は述べ数千枚以上。
頭にある音楽は数千曲か?数万曲か?
恐ろしいぞ、Yちゃん!
音楽好きを通り越してもはや「病の領域」。
そこらの音楽評論家が泣いて逃げ出す音楽ジャンキー。