焼き物師Kさん

五日間不眠不休で窯を炊く男、Kさんの焼き物展が昨日、その幕を閉じた。
新宿の京王ギャラリー。
「花瓶、壺、急須、茶碗、飯椀、皿、小鉢、とっくり、ぐい呑み
それぞれが、その味わいが違い
「南蛮、粉引き、三島」
それぞれ、その世界が違う。
南蛮焼きは土臭いブルースを歌い
粉引きは繊細なピアノソナタを奏で
三島は弾むようなポップスを踊る。
「窯を治めることはできない」と彼は言う。
作品はどれもKさんと土と火とのセッション。
人と自然の対話が、柔らかい。
三島の、模様が美しい小皿を二枚選んで、
ガキの頃さんざん迷惑を掛けた田舎の親戚に送った。
俺は、この年になって初めて肉親や親戚の有り難みに気付いた。
(他人の有り難みはもっと早くから気付いていたが)
毎年、何かの形でお礼できればと考えている。
Kさんの皿に、お気に入りの料理をのせて、楽しんでくれることだろう。
KさんとKさんの熱烈なファンであるGちゃんとで呑みにいった。
コンピューターのエンジニアをやっているGちゃんは、
若い頃にやっていた彫刻の道を再び歩き出したいと言う。
「やりなされ、やりなされ」と、いつものように無責任にけしかける俺。
「家庭か?彫刻か?で悩み苦しみ引き裂かれんばかりだ」とGちゃん。
「たった一度の人生だぜ!妻子なんか、とっとと捨てて彫るがいい」と俺。
Kさんは、自分が窯を開いた当初の食うや食わずの苦しい体験を思い出しているのか、
何も言わずに微笑んでいる。
「あと三年で今の仕事に目処がつくから、それから…」とGちゃん。
「仕事?家族?そんなもの捨てろ、捨てろ!君たち芸術家が、命削って作品を作って、
暴れて、のたれ死んでゆく、
そうやって、我々平々凡々なサラリーマンを楽しませてくれなきゃ」
と無責任この上なしの俺。
こうして楽しい夜は、どこまでも更けていった。