@コリアンタウンの夜、第一幕

27日、コリアンタウンの夜。
大江戸線東新宿の駅を出た私は、職安通りを百人町に向かって歩き始めた。
次第にハングル文字の看板とネオンが増えていく
焼き肉屋、韓国チヂミの店、キムチの専門店
町をゆく人々の会話に耳を傾ければ飛び交っているのはいつの間にか韓国語ばかり
ここは、東京ではなく日本ですらない
コリアンタウン
生まれて初めての外人街に私は、楽器ケースを握る手を固くした。
中には銀色に輝くFinal製ソプラノサックスが静かにその出番を待っている。

前日の26日、ベースのRさんから一通のメールがきた。
「ペインターのmzがギャラリーでイベントをやる。
ライブ出演しませんか?」
私は、いつもどおりさしたる考慮のないままに「参加させてもらいます」と返事した。
続いて届いたmzからのメールにはイベントの内容が記されていた。
「友達がギャラリーで個展を開催するのだが、そのオープニングパーティでライブ演奏+ライブペインティングをやります。
演奏に参加しませんか?」
個展を開く友達のサイトのアドレスとギャラリーの地図リンクが載っていた。
私はPCを立ち上げネットに繋ぎ、サイトを開いた。
血の滴る手が飛び込んできた…。
何かを誰かを、掻きむしるためなのか、爪先がひどく尖んがっている痩せ細った白い手。
終末、刹那的、凶暴、鬱屈、精神崩壊、破壊…、都会の闇、ハード&ダーク。
描いている男たちの写真が載っている
いつも筆ばかり持っているような連中ではないだろう
過去には、その手に武器を握ったかもしれない
身の危険を感じるヤバさが全体を覆う。

一度受けたライブ、ビビッたからといって断る気は毛頭ない
が、
早鐘を打つこの心臓だけは押さえようもない
私は、力の入らない足を引きずるようにして、百人町コリアンタウンに入っていった。