@八まごめに置き土産の第四打

月曜夕方の仕事帰り、大森駅で降りて最寄りのスーパーに向かって歩いてたらhロミからメールがきた。
「図書館で心関係の本を借りてきて」
彼女が今まで一度も使ったことのない「心関係の本」という曖昧な言い方になんだか胸騒ぎがした。
「もう近くだから一度帰るよ」と返信してスーパーに寄らずアパートへ急ぐ。
部屋に入るとソファに彼女が横たわっていた。
手、足は真っ白でまるで白樺のよう。
顔はまったく生気がなく真っ白く輝いているようにさえ見えた。
今までのオーバードーズによる自殺未遂とは様子が違う。
「どった?」と聞いたら「電灯にコードをかけて首を吊ったら電灯の鎖が切れて落ちた」
続けて「けんくんに邪魔されたくなくて時間稼ぎの為に本を頼んだ」と言うではないか。
言葉も意識もはっきりしている。
いつもの薬で意識不明という事態よりもましなのか?
そんなわけがない、もし鎖が切れてなかったら確実に死んでたじゃねーか。
風呂に入れて身体を温めたら落ち着いてくれるだろうかと思ってるうちに彼女は、携帯電話を操作しながら外に出ていってしまった。
部屋のすぐ外でテンション高めの話し声が聞こえる、声が聞こえているうちは大丈夫だろうと思い様子見。
すぐに勢いよく部屋に入ってきた彼女は、お気に入りのピンクのバッグを出して財布を取り出してテーブルに叩きつけ、これみよがしに黒い何かをわしづみにしてバッグに突っ込む。
「これから友達のところに行く今夜はそこに泊めてもらうから」と怒ったように言う。
「ちょっと待て、友達に電話して確かめるから」
hロミの言うことを全て鵜呑みにしてたら、今まで何回死なれているかわかったもんじゃない。
泊まりにいくというのは友達も了解しているとのことなので大丈夫だろ
まだ夜の7時過ぎだし、友達の家まで電車で乗り換えなしの30分だから大丈夫だろ、大丈夫なのか?
「一緒に行くよ」と言えば「ついてこないで」と取り付く島もない。
ふと、財布を置いてってどうするんだと思いお金を渡した。
部屋を出るとき彼女は振り返って「ギュッて」と一言。
俺はドアが開いていて外から丸見えだったのが気になり軽くおざなりに彼女を抱きしめた。
ぷいと弾けたように外に出たので慌てて後を追う
「駅まで送っていくよ」と声かけたら、
そこらじゅうに響く馬鹿でかい声で「ストーカーしないでっ」と叫んでスタスタと歩いて行ってしまった。
さすが劇団あがり、声量がハンパない。
しかし、駅まで送るのがどうしてストーカーになるんだよと思った。