3月12日脱出

3月12日土曜日
仕事中、携帯をフルに使って福島第一原発関連の情報を次から次へと見ていく。
わかったことは、
今朝、一号機の原子炉圧力が高まりすぎてぶっ壊れそうなので中の気体を放射性物質もろとも大気に放出して凌いだことと、
今現在複数の原子炉が冷却不能であること。

猿でもわかる原発事故講座
核燃料棒冷却不能メルトダウンチャイナシンドローム→水蒸気爆発→放射能を帯びた煙りやチリが世界中に飛散→みなさんさようなら。

仕事をそっちのけでケグラーやらマゴメラーやら友達に原発がいつ爆発してもおかしくない状況であることをメールする。
(誰と誰に注意喚起するとかしないとかという取捨選択はいつも難しいが、ま、だいたいぼくは女子供を優先するのでぼくから連絡のいかない男子たるものは自分の身は自分で守るように)

午後2時過ぎに仕事を終え急いで家に向かった。
いつものように公園で無邪気に遊ぶ子供たちを見て叫びだしたくなるような怖ろしさを感じた。

ドキドキしながら部屋のドアを開ける。
昨夜帰れなかったため今初めて地震アフターの部屋に入るのだ。
あたり一面に散乱しているCDやら本やら、ぐちゃぐちゃな服やら布団やら。
うはははは
あまりにもまったく全然、地震前と変わっておらんくて爆笑してしまった。
常時散乱してれば地震など怖れるにたらん。
もしかして地震に強い家というのは地震で壊れたまんまの家なのですか?オーマイジーザス!

電車の中で作った持ち出しリストをもとに手早く荷物をリュックに詰め込んで一刻も早く西へ逃げるのじゃ!
残高数十円の通帳類、印鑑、保険関係の書類、ノートパソコン、着替えなどなど。
がしかし、あらゆる物が見つからない!
なんてこったいこの散らかりようは、地震のせいだなはぁーこりゃこりゃ。。

アパートを飛び出して駅へと早足に引き返しながらrエに電話。
原発がいつ爆発するかわからない状況だ。旦那を説得して子供二人連れてなるべく早く西に逃げろ!」
「わかった旦那に相談する。茨城のヒロミの実家は大丈夫かな?」
すぐさまヒロミのお父さんに電話「テレビニュースは伝えないが、原発がいつ爆発するかわからない状況。できるならば西へ逃げてください」とお願いする。
そしてふと頭をよぎったこと、アパートの大家さんは田舎が静岡だったはず「とりあえずでいいので静岡に逃げてください」と伝えようかと思ったが、やめた。
いつものよく晴れた土曜日の昼下がりでしかない風景の中で「もしかして俺一人の頭がおかしいだけなのか?」と感じてしまったがために。

品川駅の東海道線のホームで「次の下り電車の後は運行できるかどうかわからりません」というアナウンスを聞いた。
これから来る電車に乗れるか乗れないかが生死の境い目になるかもしれない、たとえ東京脱出組でどんなに混んでいたとしても絶対に乗ってやると心に誓い普段は横目で見るだけの乗車待ちの列に並ぶ。
予想どおり混み混みの電車がはいってきたがどうにかこうにか身体を車内に潜り込ませることができた。
ぼくが乗った乗降口付近のお客はなんとか全て乗れたことに安堵した。
車内を見渡せば緊張と不安の顔顔顔、目に見えない放射能の恐怖が増幅していき心が潰れる寸前の蟻んこたちの群れだ。

横浜駅に着くとなんだなんだ、みんなドッと降りて車内がスカスカになっちまったじゃねーか。
ありり?みなさん首都圏脱出するんじゃなかったのけ?おーい原発が爆発するんだぞー放射能が飛んでくるんだぞー恐いんだぞーとっても恐いんだぞーおーいみんなー…。
あのみんなの不安顔は単なる俺の色眼鏡だったのか、もしくは前夜の帰宅難民的歩き疲れのためなのか。
単なる土曜日の遊び疲れとは、思いたくも、ない。
すっかり拍子抜けするとともにやっぱり俺一人が気が狂っているだけなのかと十五秒ほど落胆する。

藤沢を過ぎたあたりだったか携帯をいじり2チャンネルで情報収集していたら一号機爆発の速報ニュースが飛び込んだ。
予想をしてたとはいえどもその衝撃は半端でない、いよいよこれが終わりの始まりなのだろうかと青ざめた。
福島第一原発から藤沢まで距離は何キロ?風向きは?そしてなにより今俺は、時速何キロで逃げているのだ?
計算はさっぱりわからんけど、まあ大丈夫だろう俺はね俺は。
東京に残っている13000000人の生死はわからんが、この俺さまはどうやら生き残れそうだ。
などと、いやらしく考えながらも友達各位に一号機爆発のメールを飛ばす。
その注意喚起メールは速報ニュースをコピペしただけで「逃げろ」とは付け加えなかった。
「どうかみなさん!生きる残るためにできることは全てやってくれ!また会おうぞ!なるべくなら現世でな。」
と心中で思いつつも。
誰の目からみても一刻を争うような最悪なことが起きた場合は事実だけを淡々と伝えるのがいい、かな?
他人の意見を聞いて右往左往するよりもただ事実だけを見据えてそれぞれが野生の本能のままに行動したほうがうまくいきそうな気がする。
ま、人が騒げば騒ぐほどにぼくは静かになりたがり人がボンヤリしてるときほど騒ぎたくなる性分のぼくは、「爆発パニックに陥りつつある東京のみなさんには淡々と静かにメールを送ることにしてみましたよ」だけのこと。

夕方、東海道線を乗り継ぎ静岡駅に到着した。
駅構内、十メートルおきに立っているおびただしい警官の数に今起きているであろう首都圏脱出パニックを見た気がした。

夜9時にマックを追い出されてコンビニをウロウロして乾電池式携帯充電器を探すがどの店も売り切れ、仕方なく吉野家で牛鍋丼を喰らい駅前のネットカフェに入った。
テレビにパソコンに携帯をフルに使ってひたすら情報収集する。
「水素爆発が起きてコンクリートの建屋がぶっ飛んだだけで原子炉は健全なので大丈夫です」としか繰り返さない政府に不信感を募らせながら、2チャンネルの緊急自然災害の原発情報の掲示板の更新ボタンを連打しまくって、一秒でも早く状況を把握しようとする。
枝野さんがいくら大丈夫と繰り返しても水素爆発を想定して設計してある原発なんて地球上のどこにもありはせんわ、アホんだら!
今の3キロ圏内の避難地域の拡大もする必要はないと言う、馬鹿たれが!
政府はあきらかに被害を矮小化させる戦略をとっている、簡単にずばりと言うなれば命よりも金を取ったというわけだ。
どこの国でもそうだが、いつの時代でも危機的なことが起きた場合、政府を信じた者たちがいつも犠牲になる。
犠牲になる側から見たら歴史なんてのはループしてるだけで螺旋なんて描きやしないのだ。

ぼくはただ淡々と、
今何が起きているかを知り、次に何がどうなるかを予想し、前のめりの行動計画を建てる。
この三つをただシンプルに組み立てるだけ。