5月5日その弍

山田町の船越に入った。
左手には、失敗したドミノ倒しのようにあっちこっちを向いて傾いだり倒れたりしてる防波堤ブロック、右手には自分のスケール感を疑ってしまうほどに巨大すぎる瓦礫の山がいくつも連なっていた。
坂道を上がり、老人介護施設だったという建物は3月11日のままなのだろうか、壊れた窓の中は人が一歩も踏み入れないほどに瓦礫が空間を占領していて、その屋上には誰かのいたずらのようにポルシェが空を見上げていた。

災害ボランティアセンターとなっているB&G海洋センターと書かれた建物に入ると、真っ先に迎えてくれたのは、かつてのモーターボート連合会の会長であり右翼のドンである笹川会長のどでかい写真がでーんと。
思わずぼくは「よぉ、会長ずいぶん久しぶりだな!俺が今まで平和島競艇に寄付した金をそっくり全額山田町に回しておけよ!」と毒づいちまった。
ボランティアの受け付けで、東京では時間がなく入れなかった念願のボランティア保険に入ることができた。保険料を取られることもなくて、もしや山田町持ちか?ラッキー!
天災Bプランね、おぉー金額が高いほうのプランじゃん!
ふむふむ、死亡したら2000万円か、やったぜ!これなら余裕で借金返してワンと鳴き、葬式出してニャンと鳴き、世界一周旅行を三回まわってロンッと言ってもおつりがもらえるぜ、ふふふのふ。
なになに、賠償責任の補償額が5億円となっ!これなら安心してとんでもないヘマをやらかせるっ!

掲示板には何枚も貼り紙がしてあり、それぞれに依頼されたボランティアの作業内容や必要人員が書かれている。
まずぼくたちは、その貼り紙を見て自分のやりたい事案に目星をつけとく。
そしてコーディネーターが一件一件貼り紙を読み上げ希望者に手を上げてもらい、順次決めていくしくみだ。
ぼくは、自分の脳みそと筋肉の比率を考慮して一番しんどそうな肉体労働を狙っていた。めざせ!体育会系的筋肉疲労がもたらす汗臭い充実感を!
「No.7  必要人員  男10人から14人 作業内容、瓦礫撤去」
求む!超ガテン系、土建作業経験者優遇、学歴不問以上っ!みたいな。
コーディネーターが貼り紙のNo.1から読み上げていき希望者を募っていった。
「No.3  ボランティア内容、お祭りのスタッフ」というのを聞いて我が耳を疑った。たったさっき目の当たりにした町の悲惨な様相とお祭りとの激しすぎるギャップ。
すると元気よく手を上げる我々ジャパニーズよりも一回り大きい男、Mーク!!
No.4家の片付け、食器洗いの件には、おぉ、Kムラがいきよったー!
ぼくのお目当てのNo.7の貼り紙はまだコーディネーターの手元になくて掲示板に貼られたまま。
それを二人の男が見ながら何やら相談しているみたい、どうやらあの二人と一緒に作業することになりそうだ。
「No.5家の中の水洗い。必要人員は5人です。希望者いませんかー?」
ふふふ、ぼくはNo.7の筋肉作業一点勝負じゃよ!家の中の作業よりも屋外で汗をかきたい。
「誰かいませんかー?…、誰もいないなら後回しにして、次にNo.6の…」と、その時、No.7を見ていた二人が貼り紙をはいで別のスタッフのところに持っていきやがった。
くそっ!奴ら何人かのグループなんだな、自分たちでそっくり補うつもりかよ?ぼくのNo.7を持っていきやがって、くそっ!
その瞬間にSンと顔を見合わせてテレパシーで会話した。
「いくか?」「OK!」
「ちょっと待ったーっ!五番うちら二人いきまーす!」と慌てて手を上げた。
「他に行ってくれる方はいらっしゃいませんか?」そしたらもう一人、いきのいい若いあんちゃんが手を上げた。
「Yウですよろしく!」
大阪から延々と下道千何百キロをスーパーカブできたという熱い男のYウがテキパキと必要な道具をSンノスケ号に積み込んでいる時、ぼくは、水だのスポーツドリンクだのカロリーメイトだのノド飴だのマスクだの軍手だのご丁寧にうがい薬だのバンテリンだのが入ったビニール袋をもらって、修学旅行のおやつを支給された小学二年生のような気分になりかなりテンションを上げていたのだが、
そのことがばれると恥ずかしいので誰にも気づかれないように努めて何かをしてるフリをしてたりしてた。