Kさん頑張れ!壱の巻

陶芸家Kさんの話を。
彼は仙人みたいだ。
群馬の山ん中に一人で暮らしている。
一週間くらい人と会わなかったり話をしなかったりなんてことはよくあるそうだ。
東京全体が廃墟と化し人っ子一人いなくなることを夢みる俺にとっては、ずいぶん羨ましい話だ。
Kさんは一切妥協しない。
ろくろで一般的なのは電気ろくろ、電気の力で台がぐるぐる回るやつ。
映画「ゴースト、ニューヨークの幻」でジョンとメアリーがいちゃいちゃするシーンでお馴染みの回転台。
粘土を壺やお椀の形にする時に電気ろくろを使い綺麗に円く作る。
Kさんの壺やお椀は、正円から微妙に崩れている。
彼は電気ろくろを使わない。「けろくろ」という、足で蹴ってまわすろくろを使う。
回転スピードが一定でないし、蹴るのをさぼるとすぐに減速して止まってしまう、まことに難儀な代物。
窯は、電気窯やガス窯のこの時代に、あえてマキを燃料として使うマキ窯。
その窯はたった一人で、えっちらおっちらと一輪車とスコップで作ったそうである。
陶芸家として食えるかどうかわからない、なんの展望も約束もない若かりし頃、
収入もなく喰うや喰わずの真っ只中で、人里離れた山ん中で黙々と一輪車を押しスコップをふるう白髪の痩せた男。
まんが日本昔話」のオープニングにぴったりだ。
群馬の山ん中で一人、
土にこだわり水にこだわり練り上げた粘土をけろくろで形作り、
手作りのマキ窯で焼く。
で、それだけなら俺的には「すごい情熱の人として尊敬します」で終わってしまうのだが、、

彼は、「凄まじい」
窯焚きは、マキをぼんぼんくべて火を燃やして焼くのだが、、その期間は五日間。
彼はその丸五日間、百二十時間あまりの時を不眠不休でマキをくべたり火の調節をしたりするのである。
恐ろしい、、
人間は丸五日間、一時も休みことなく眠ることなくひとつの行動していられるだろうか?
正常な人間の範疇に入るとは到底思えない。
彼曰く「どうしても一瞬一瞬、フッと眠ってしまう」と。
おいおい、それは「眠り」ではなくて意識が遠退いているんやないかい?
一瞬の隙を狙って、死が闇へと引きずり込もうとしているんやないかい?

「情熱」なんてさわやかなものではなくて、「狂気」以外のなにものでもない。
それも「狂人の狂気」という第一級の狂気。

窯の火よりも激しく燃えている彼の目が、いずれ陶芸界を焼き尽くし全てを灰にしてしまうだろう。